信州大学医学部歯科口腔外科レジデント勉強会

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Department of Dentistry and Oral Surgery, Shinshu University School of Medicine


いわゆる有病者の歯科治療

33. 妊産婦

2000.12.6 小塚 

 妊娠中の口腔疾患は、食生活、口腔内環境の変化、性ホルモンとの関係で多くの病変を併発する。妊娠性歯肉炎やエプーリス、口角びらん、歯の動揺、神経痛様疼痛などがあり、治療にあたっては、母体に起こる変化と、胎児に対する影響を考慮する必要がある。

1. 妊娠の時期の数え方

最終月経の最終日が妊娠0週0日
4週を1月とし、40週0日で分娩

2. 妊娠時期による影響

<0〜3週>all or noneの法則:受精後2週間(次の予定月経直前)以内に影響を受けた場合は、着床しなかったり、流産して消失するか、あるいは完全に修復されて健児を出産する。

<1月〜2月>特に薬剤投与に注意すべき時期:催奇形の絶対過敏期:サリドマイドの教訓では、月経周期28日型の人で月経初日から33日目位までは安全であった。つまり、月経が少し遅れるかどうかの頃から注意が必要。薬などの影響による危険性より治療の有益性が上回ると判断される場合に、使用すべき。

<3月〜4月>慎重投与の時期:重要な器官は形成終了しているが、性器の分化、口蓋の閉鎖が続いている時期。

<5月〜分娩>奇形の発生はないが、機能的発育や発育抑制などが起こる。治療には安定期の5〜7月の間がのぞましい。安定期だからといって、薬などの影響がないとは言い切れないが、あまりに痛みがひどいなど、は治療を優先できる。

“つわり”:妊娠5週はじめ頃から。ひどくなりだすのは、妊娠6週〜7週頃。だいたいは、妊娠12週頃には、消失。この時期には食生活は少量頻回摂取となりまた、嘔気によりブラッシング不良が重なり、歯肉炎の発生が多くなると考えられる。しかし、薬剤による対応は避けるべき時期でもある。

3. 診療の実際

・“女性を見たら妊婦と思え”、必ず月経が遅れていないか、最終月経、妊娠の可能性について問診すべき。

・妊娠中の投薬は基本的に避けるべき、抜歯など大きな処置は、可能なら分娩後へ延期。

・やむをえない場合の抗生物質投与

・妊娠初期と末期では、十分注意して投与
・第一選択はペニシリン系かセファロスポリン系
・新薬は避け、長く用いられた物を使う
・危険性のあるもの:テトラサイクリン系(エナメル質の染色、形成不全)、アミノグリコシド系(ストレプトマイシン、カナマイシン妊娠初期の投与で胎児の聴神経障害)、クロラムフェニコール(胎児死亡の増加)、ニューキノロン系も禁忌     量は通常量
・胎盤通過は20〜40%で、乳汁への移行も同等と考える

・鎮痛剤

・ステロイド系は全て危険(胎児の副腎皮質機能不全)
・非ステロイド系も妊娠末期の使用で動脈管の閉鎖作用があり、やむを得ず使用する場合は少量とする
・非ピリン系のアセトアミノフェンが比較的安全だが、長期投与は避ける

・局所麻酔薬、血管収縮薬

・通常歯科で用いる量では問題は少ない(キシロカイン10本程度までと覚えとけばOK)

・フェリプレシン(オクタプレシン)は分娩促進作用あり

・授乳期の薬剤投与

・新生児の薬物代謝能力、解毒力は低い、肝・腎毒性の強い薬剤の使用は注意
・授乳の中断も考慮する

・放射線については、上顎前歯オクルーザル以外では生殖腺にほとんど影響を与えないと考えられるが、なるべく5月以降が安全と思われる。やむを得ず撮影するときは、下腹部、骨盤部にプロテクターを使えば、妊婦はより安心する

・妊婦は非常に神経質になっているものと考え、より以上のインフームドコンセントに心掛ける

 

<参考文献> 


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